「虹を渡ってきた男」

台風一過は、空気中のゴミを洗い流して、曇りなき青空を連れてきた、と言いたいところだが、残念ながら今日は重たい雲が空を覆い、今一つすっきりしない。
虹を見つけるのは偶然のことが多い。
でも虹を見つけたときには、ほんのひとときであっても心洗われた気がする。
雨は空を洗い、残りの粒子が虹という置き土産をくれる。

虹をランラランラ わたり
愛を胸に あなたのもとへ
とてもきれいな 雨あがり
あなたを想って 歩くのよ


虹をわたって 天地真理 (1972)

これは、天地真理さんの1972年のヒット曲「虹をわたって」の一節である。
天地真理さんは埼玉県生まれであるが、両親の離婚に伴い東京に引っ越した。
国立音楽大学附属高等学校ピアノ科に進学し、のちに声楽科に転科する。
天地さんは、その後に続く女性アイドルの先駆けとなったが、専門的に声楽を学んだこともあり、その丸い声質がよく物まねされているが、歌唱力があり、その後に登場するアイドルとは一線を画している感がある。

「虹」をテーマにした曲は、あまたあるが、私の思い出の作品としては、チューリップ「虹とスニーカーの頃」がある。

わがままは男の罪
それを許さないのは女の罪
若かった 何もかもが
あのスニーカーはもう捨てたかい


虹とスニーカーの頃(1981)/チューリップ

チューリップとしても久々のヒット曲であったが、同時期に財津和夫さんのソロ作品として発表された「WAKE UP」も記憶に残っている。 
テレビコマーシャルで、なぜかトラックを運転する財津さんが妙に印象深い。


セイコー Wake Upキャンペーン

しかし今回取り上げるメインは、谷啓さんの名曲「虹を渡ってきた男」である。
谷さんはクレージーキャッツのメンバーとして人気を博し、ガチョーン」「ビローン」「ムヒョー」などの流行語を生み、最近では映画釣りバカ日誌の佐々木部長役や、NHKのテレビ番組美の壺で、飄々としたご隠居の主人として番組の案内役を務めた。
コンサートも開催され、私も「心斎橋クラブクワトロ」に出かけた。
極度の恥ずかしがり屋がゆえに、その反動からか奇行に及んでいたという。
派手なアメ車を乗り回し、怪奇映画、ホラー映画の大の愛好家であり、『足の水虫が好き』で、まったく治療せず常に水虫状態だったという。
植木等さんが、「ガンガン攻めてくる」感じなのに対し、谷さんは、追い込まれたときのリアクションが絶妙で、それを探す面白さがあった。
谷さん主演の映画「クレイジーだよ奇想天外」の挿入歌として制作されたこの曲は、その映画のストーリー、特にラストシーンを思いながら聴くと、哀愁を帯びている。
少年に風船を渡す、その横には好きだった星由里子さん演じる和子がいるのだが、
地球より文明の発達した遊星αに帰らず、地球に残る代償として、和子と過ごした記憶が消去されているから、和子は全く気づかない。
でも和子のいる、思い出の詰まった地球に残ることを選んだ谷さん演じるM7(ミステイク・セブン)の悲しさと決意の入り乱れた心の内が痛いほど伝わってくる作品である。
ちなみに、この作品は加山雄三さん主演の『アルプスの若大将』と同時上映され、この二本立ては、興行収入8億8000万円、配給収入4億4000万円と、当時の東宝の興行新記録を樹立した(観客動員数は400万人)。

アアのネ あんた知ってるかい
どこにあるのか 倖せが ホラ
あんたの心の中にある
僕は虹を渡ってきた男
宇宙は広いよ 心も広いよ 
ヒンビキ カラカラ ヒビリキリ


クレージーだよ奇想天外